・・・ザンネンナガラ  フ ゴウカクデス

 

 

実家の固定電話の受話器から聞こえるロボットの声

 

 

当時は大学の合格発表は、電話による合格発表が主流だった

 

受験票に記載された指定の番号に電話をかけ

受験番号などの情報をプッシュする

 

そうすると、電話のロボットガイダンスで

合格

不合格

かを教えてくれる

 

 

この日

 

・・・ザンネンナガラ  フ ゴウカクデス

 

のフレーズを聞いたのは合計4回

 

どういうシステムだったのか忘れたが、2つの大学の同じ学部を2個ずつ受験して、4個の合格発表を待っていた

 

つまり、4/4で不合格だった

 

 

この不合格通知を聞いたのは僕と母と2歳年上の兄の3人

兄は当時超四流大学の2年生だった

 

電話をスピーカーモードにして全員に聞こえる状態にしていた

 

兄は結果を聞き大爆笑している

 

“お前クズやん 笑”

 

 

ヒャッヒャ笑いながらこれを連呼する

 

兄の名誉の為に伝えるが、兄は本当にいいヤツ

 

そんなことは長い付き合いだから僕はわかっている

心の底から笑っているわけではない

絶望する弟を元気づけるために明るく務めているだけ

 

だから、別に”クズやん 笑”って言われても怒りの感情は全くなかった

 

そんなことより頭の中は

 

“これからどうする?”

 

しかなかった

 

 

 

母は”あらあら”しか言わなかった

 

 

 

これの方が兄のリアクションよりよっぽどムカついた

それ以外は何も言わずその場を立ち去った

本当にかける言葉がなかったのだろう

 

おそらく母は、こうなることをある程度予想してたと思う

 

僕は高校生のときに全くといっていいほど勉強をしてこなかった

2年生の時には体育以外のすべての教科で赤点をとり、進級について校長、担任、母、僕の4人で面談をしたこともある

 

3年生になっても勉強はせず、あげく国家三種を目指すと言って、大学受験勉強から逃げていた

8月に国家三種の受験も失敗し、仕方なく大学受験をすることに決めた

しかし、当然勉強をする気になれなかった

 

10月頃にようやく勉強を始めようかと思ったが、時すでに遅し

高校1年の最初からスタートしなければならなかったので受験どころの話ではない

 

だから大学受験を失敗するのは当然の結果と言える

 

 

 

大学受験の失敗がキッカケで、人生で初めて

 

この先どうすればよいのか

 

真剣に考えるようになった

高校生ならそんなもんかもしれないけど、それまでは本当にテキトーに生きていた

 

 

 

その日の夕方、僕は中学校時代の友人たちと夜飯を食べる約束をしており、メシ前に喫茶店に行くことになった

 

 

行くのはあまり気が進まなかった

 

 

僕を含めた6人の高校生集団は、喫茶店に入り、各自の大学受験発表を始めた

 

6人中4人は第1希望の大学が合格し、うれしそうな様子

 

 

1人は、全滅したが浪人宣言をし、開きなおる様子

 

 

僕だけやさぐれた様子

 

 

 

4人はハイテンションながらも、考えられないくらい大人しい僕を気にかけて

 

“どうするの?お前も浪人?”

 

と聞いてきた

 

 

それが僕は無性に腹が立った

 

 

本人達にその気があったかなかったはわからないが、

その時の僕には、明らかに僕を下に見ているような言い方に聞こえた

 

正直、数分前から楽しそうにこれからの大学生活について話してる時点からかなりムカついていた

 

 

“うるせぇ”

 

 

と言って、僕は500円だけテーブルに叩きつけて喫茶店を出るとともに、原付のエンジンをかけ走り出した

 

 

実家を通り過ぎ、三国山へと向かった

原付にまたがる最中の頭の中は

 

“クソ

 

“クソ

 

“クソ

 

しかなかった

クソと思っても、その後の反論は、何も出てこなかったので余計に悔しかった

 

 

泣きたいくらいだったけど、

泣くことより、はるかに上の感情が支配していた

 

 

 

 

気づけば三国山に到着していた

 

自動販売機で缶コーヒーを買い

タバコに火をつけた

 

眉間にシワを寄せ、鬼の形相で鼻から煙を吐いた

 

 

すでに大学受験に失敗したことは頭にない

そんなことより、とにかくあいつらが自分を下に見てきたことが許せなかった

 

 

クソッ

あいつら全員捲ってやる

必ず後悔させてやる

 

 

沈み行く夕日を見ながら、タバコをもう何本吸っただろう

 

 

徐々に次の方向性が見え始めてきた

 

 

あいつらに会うまでは、とりあえず高校卒業後は土木作業員か何かになろうとしていたし、喫茶店でもそのように伝えるつもりでいた

 

浪人は頭から考えていなかった    理由は未練がましくてカッコ悪いから

 

 

 

 

タバコを深く吸い

煙と鬱憤を冷たい空に一気に叩きつけた

 

 

 

金持ちになってやる

大学卒以外の何かで

 

 

 

高校3年生にもなればわかる

今から自分たちが何で測られるのかなんて

 

結局、より良い大学に入るというのも、より良い生活(金)を手に入れるためのもの

 

だからあいつらより金持ちになって、今度はこっちが真上から垂直にあいつらを見下ろしてやるのだ

 

そして、大学を卒業しても普通もしくは、よく行ってエリートサラリーマンにしかなれない

 

圧倒的な垂直方向への見下ろしを実現するには、大学以外の何かでやる必要がある

それに大学という選択をしたことを後悔させなければ意味がない

 

被害妄想は激しく

いつしか“あいつら”というのは特定の4人ではなくなっていた

 

大卒者すべてがその対象となっていた

 

すなわち、すべての大卒者を圧倒的に見下ろさなければならない

 

そう考えたのだ

 

もうタバコはなくなり、原付のポケットに入っているシケモクに手を伸ばす

 

 

夕日は完全に沈み、あたりは暗くなってきた

田舎の小さな山の上で

ちっぽけな18歳のガキが反撃の狼煙を上げた

 

 

 

とはいえ、何で金持ちになるかはまだ決まっていない

家に帰り、パソコンで高収入職業ランキングを検索した

 

弁護士

公認会計士

税理士

司法書士

社会保険労務士

 

 

弁護士は難しそうだからナシ

公認会計士も難しそうだからナシ

反撃の狼煙だどうだとカッコつけている割には結局はラクをしたいというスケベ心はある

 

 

残りは

税理士

司法書士

社会保険労務士

の3つ

 

さらにネット検索を進めると、、、

 

税理士年収3,000万円は夢じゃない

 

これが誰の何の情報で信憑性が高いかどうかは当時の僕には疑う余地もなかった

 

 

今どき大卒でない人間は、最後まで大卒出にこき使われ、このままではこの先どこまでいっても浮かぶ瀬などない

 

 

 

 

もうコレしかない

 

本当にそう思ったのだ

 

 

 

 

 

 

 

反撃の狼煙をあげてから16年が経過し、今は34歳

僕は26歳で税理士になり、唯一無二の男と共同で独立開業をした

 

かつてのあの4人とは、16年経過した今でも年に1度は会っている

 

 

今や収入と労働時間を彼らと比較すると、考えられないくらいの差ができている

 

 

僕は高い位置から圧倒的な角度で垂直方向に”あいつら”を見下ろしている

 

 

あの時あげた反撃の狼煙は、数年前にタバコをやめるとともに消した

 

もう彼ら(大卒者)に対する狂った劣等感はなくなった

 

 

大学受験に失敗した人の末路は

 

大学受験を失敗して本当に良かったと思える人生を送っている

 

 

心の底から

 

  • 大学受験に失敗して
  • 喫茶店に行って
  • 同級生に下に見られて
  • 三国山に行って
  • タバコを吸ってて

 

本当に良かったと思う

どれも今の僕に必要な要素だった

 

結局、大学受験なんかに失敗してもなんでもない

また受験するか、別の道を探せばいいだけのこと

 

重要なのは、そういうことが起きた時に、反撃の狼煙をあげることができるかどうかになる

 

 

狼煙があがらなければ、やられっぱなしの人生を送ることになる

 

 

 

ちなみに、兄に税理士に合格したことを伝えたとき、兄は自分のことのように喜び、何度も何度も”やっぱりお前はスゲェな”と言ってくれた

何度も言うが、あいつは本当にいいヤツなのだ

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