ナガエ 「あの~。ちょっと話が…」

オオクラ 「どうした??」

ナガエ 「突然ですが… オレ事務所辞めます!!」

 

僕が震える手を押さえながら85万円の振り込みをしてから3ヶ月がたっていた。

この時点では、捨て身で使ったこの85万円の効果はまだあまり出ていなかった。

もういい加減ヤバイ。このままでは資金が持たない。

毎日どれだけ資金繰り表と格闘しても、あと3ヶ月後には資金が枯渇することは明らかだ。

そんな、最悪な状況下で長江からの突然のナガエ退職宣言。

これにはさすがに僕も驚いた。

 

これまで、相談こそしていたものの、僕の裁量でさんざん無駄な広告費を払い続けた結果、ろくに顧客も獲得できず、このような窮地に追い込まれたのだ。

普通に考えればとっくに辞めていてもおかしくはない。

 

すると、次にナガエはなぜかハイテンションでこう言った。

 

ナガエ 「いったんどっかの事務所に就職して、金稼いでくるわ!」

ナガエ 「で、金貯まるか、客が増えたらまた合流します!!」

 

こいつは、心底アホだと思った。

最初からやめるつもりなどなく、事務所存続のために自分を犠牲にしようと考えての結果だったのだ。

 

この時はまだ法人化はしておらず、僕の個人名義で事務所をやっていたため、僕が外へ働きに出るわけにはいかない。その事を彼はわかっていたのだろう。犠牲になるなら自分だと。

 

情けないことに、僕にはもうその選択肢をとるしかなかった。

親や兄弟に頼み込んで資金を援助してもらうという選択肢もあったがなぜかそれは全く考えなかった。

 

次の日から、長江の転職先を探す作業が始まった。

でもなぜだか、こんな時でも僕達はいつも楽しそうだった。

 

オオクラ 「おい!○○事務所はどうよ!!」

ナガエ 「そこはアカン。面が割れてるから絶対採用してくれん!」

オオクラ 「じゃあ、ここはどうだ!」

ナガエ 「あ~、それは所長が○○だから無理でしょ!」

 

こんな会話が数日間続いた。そして、候補の事務所が決まり早速履歴書を送った。

 

すると、見事に全部不採用になってしまった。しかも書類選考で。

税理士資格を持った人間がまさか不採用になるとは夢にも思っていなかったので僕達は驚いた。

と、同時に次の打つ手がなくなり、廃業の2文字が頭をよぎった。

 

もうだめだ。

 

 

そんな時、一本の電話が鳴った。

電話の相手は知り合いの経営者のBさんからだった。

 

オオクラ 「どうも!大倉です。」

B 「オオクラ君って、相続とかやる?」

オオクラ 「はい。仕事があれば全然やりますけど…」

B 「じゃあ、知り合い紹介するわ!」

 

この時ばかりは神様の存在を信じた。

 

相続と言えば、規模によもよるが100万単位の報酬が見込みめる。

この100万があれば、事務所の命が3ヶ月は延びる計算だった。

結局、この相続で150万円頂けることになり、寸でのところで廃業を免れた。

 

しかし、ホッとしている場合ではない。

ただ一時的な資金が入ってきただけど状況は何も変わらない。

このままでは、毎月資金が目減りしていくだけだ。

何か手を打たなければ、半年後にまた同じことになる。

 

そう考えた僕は、ナガエにこう言った。

 

オオクラ 「よし!こうなったら事務所を名古屋に引っ越そう!!」

ナガエ 「そりゃいいね。」

 

もはや、聞く必要があるかわからないぐらいの素早い返事。

それもそうで、改めて聞かなくても普段からそういう話はしているからだ。

 

当時はまだ愛知県の豊田市で事務所を借りていた。

 

実は豊田市で新設される法人は毎月10社もない。これに対して名古屋200社~300社もある。

この事実を知り、圧倒的に企業数が多い地域に事務所があった方が顧客は獲れるのではないかと考えた。

 

ただ、引っ越しと言っても結構な資金は掛かる。

相続の報酬で150万円入った来たとしても、ここで一時的に資金を使うとまた寿命が縮まる。

もうここまで来ると僕らの感覚はおかしくなっている。

防御の事は何も考えていない。とにかく、パンチを打つ。打つ。打つ。打つ。ノーガードで当たるまで打つ。こんな感覚だった。

 

時々考えることがある。

今の僕にあの時の選択が出来るだろうかと。

 

まずできないと思う。

よくも悪くも少し大人になっということだろうか。

 

当時の僕らは何だかそんな苦しい状況を楽しんでいるようにも思えた。

実際に今よりも毎日充実していたかもしれない。

 

そんな頃、3ヶ月前に僕が放った85万円の効果がジワジワと出始めた。

 

今考えれば相当ボったくられたと思うが、この85万円は実はSEO対策のために投じた資金だったのだ。

その効果が出始めHPからの問い合わせが増えてきたのがちょうどこの頃。

 

これをきっかけに、事務所を名古屋に引っ越すことに決めた。

この時の引っ越し費用はたしか100万円程。

 

当時の状況で100万円はかなり負担が大きい。

でも不思議と全く躊躇することはなかった。

 

これが自ら事務所の寿命を縮めた27歳の春のことだった。

 

続く

【T-FRONT物語】第四話-ついに来た!T-FRONTの快進撃